より移植に適した胚を移植するには?
インキュベーターという培養器の中で卵子の受精が確認されると,さらに培養を進めます。

順調に経過すれば,培養開始から約48時間後に4ないし8分割の分割卵を認めることができます。

この分割卵︵胚)を子宮の中に移すことを胚移植と呼びます。

しかし、分割卵であれば、すべて胚移植に適するというわけではありません。

妊娠が成立するためには、その分割卵が良好なものであるかどうかが重要な要素となるのです。

この分割卵がどの程度良好なのか(グレード)を形態学的に評価する指標として、Veeckの5段階分類が最も一般的に用いられています。

この分類は分割した各々の細胞、これを割球といいますが、その形と,フラグメントと呼ばれる小さな細胞質の断片(hm)の割合を指標としています。

※Veeckの5段階分類。

グレード1,分割してできた細胞(割球)の形態が均等でフラグメントを認めないもの。

グレード2.割球の形態は均等であるがわずかにフラグメントを認めるもの。

グレード3.割球の形態が不均等なもの。

フラグメントが存在してもわずかであるもの。

グレード4:割球の形態は均等または不均等でかなりのフラグメントを認めるもの。

グレード5割球をほとんど認めず、フラグメントが著しいもの。

通常、この分類で妊娠に適するのはグレード1もしくは2の卵といわれ、グレード4、5では妊娠がほとんど期待されないといわれています。

私には大変興味深い経験があります。

私のもとに不妊の相談に来られ、その後、体外受精をおこなうことになった方なのですが、移植の直後に当院にいらっしゃいました。

そのとき、彼女は今回移植したという2つの分割卵の写真を私に見せてくれました。

そこには、とてもきれいな8分割卵が2個写し出されていました。

私と彼女との間で以下のような会話が交わされました。

「たいへんきれいな卵ですね。

両方ともグレード1でしょう?」「いいえ。

そうじゃないんです。

ひとつはグレード1と一言われましたが、もうひとつの卵はグレード3といわれました」-「どうして、こちらの卵がグレード3と評価されたのでしょうね?」「その先生がおっしゃるのには、グレード3と判定された卵のほうは、もうひとつに比べて4分割卵になるまでのスピードが遅かったそうです。

それでグレード3と判定したということです」。

Veeckの5段階分類は、割球の形と、卵の中のゴミでもあるフラグメントの量を指標としています。

分割するスピードは無関係なのです。

しかし、この医療機関ではより厳しい目で見て、グレード3と判定したわけです。

医療に限らず、プロフェッショナルは一流になればなるほど、ものを見る眼というものが研ぎすまされ、厳しく評価するようになります。

結果的にこの女性はこの体外受精で無事妊娠に至るのですが、実際に育ったのが、グレード1の卵なのかグレード3の卵なのかは、なんともいえないと思います。

胚移植が終了すると、多くの場合、黄体ホルモン製剤の補充がおこなわれます。

ベジママを楽天などで手に入れて服用し、子供に恵まれることを祈るような通常の自然妊娠では、排卵したあとの卵胞が黄体というものに変化し、そこから黄体ホルモンが多く分泌されるようになります。

黄体ホルモンは体温を上昇させ、妊娠を継続するホルモンです。

体外受精では、より妊娠の確率を上げるべく、身体の外からこのホルモンを補充するわけです。

その方法としては、経口薬、注射腟坐剤、あるいは貼付薬など、いろいろなルートで医療機関の判断で補充されます。

医療としておこなえるのはここまでで、移植した受精卵が無事着床し妊娠に至るかどうかは、つまるところ胚と子宮内膜の相性ということになってしまうのかもしれません。